
はじめに:なぜ、同じような内容でも反応が違うのか?
「同じ業界のあの会社は新聞に載っているのに、うちは全然…」 「せっかくプレスリリースを出しても、記者から何の連絡もない」 そんな悩みを抱える企業は少なくありません。
しかし、それは“記者の気まぐれ”や“運”のせいではないのです。
掲載される企業とされない企業には、明確な違いがあります。 本記事では、その違いを明らかにしながら、メディア掲載を実現するための実践的な視点をお届けします。
第1章:プレスリリースは「情報」ではなく「ニュース」
プレスリリースとは、企業が伝えたいことをメディアに知らせるための公式文書です。
しかし、「伝えたい」だけでは意味がありません。記者が求めているのは“ニュース”です。
まず前提として、記者は「社会にとって意味があるか」という視点でリリースを見ています。企業の都合や内部の事情に興味があるわけではありません。
● 「ニュース」とは何か?:変化性・公共性・意外性・タイミング
たとえば、同じ「新サービス開始」でも、 ・すでに他社がやっている → 変化性に乏しい ・一部の人にしか影響がない → 公共性が低い ・意外性やユニークさがない → 記者の目に止まりにくい ・ニュースの“旬”を逃している → タイミングを外している こうした点が一つでも欠けると、“掲載されないリリース”になってしまいます。
● 「社内での話題」=「社会の話題」ではない
「社内的には大きな話題だった」 「社員はすごく盛り上がっている」 という出来事が、外部の人にとって必ずしも関心の対象とは限りません。記者にとって重要なのは「このニュースを読者が知ることで、どんな行動や感情が生まれるか?」という視点です。
● 「お知らせ」と「報道価値」の違い
「○○を始めました」「△△を変更しました」 こういった内容が単なる「お知らせ」で終わるか、報道として扱われるかの分かれ道は、“その出来事が社会とどうつながっているか”という点にあります。
たとえば、 ・地域経済や雇用にプラスの影響がある ・社会課題への具体的な取り組みにつながっている ・他業界や他地域にとっても波及効果がある といった要素が加わると、ぐっと報道価値が高まります。
つまり、プレスリリースを作る際に必要なのは、 「何を言うか」よりも、「どうつなげて伝えるか」の視点なのです。
第2章:掲載される企業に共通する視点
メディア掲載を実現している企業には、共通した視点があります。 それは、「自分たちの立場」ではなく、「読者や視聴者の視点」で発信を考えているということ。
これは単なる表現の違いではなく、情報の“立て方”そのものに関わってきます。記者は、読者にとって価値のある情報を探しています。だからこそ、企業がどれだけ努力したかではなく、「それが社会にどう役立つのか」「誰の問題をどう解決するのか」が問われるのです。
● 「で?」の問いに強い:この情報は誰にとって、何がどう良いのか? → たとえば新商品の発表であれば、「この商品が登場することで、今まで不便だった○○が解消される」「消費者が△△を選ぶ選択肢が広がる」といった“意味”をセットで提示することで、記者は記事としての筋道を見出しやすくなります。
● 社会課題・地域性・季節性との接続がある → どんな内容も、“今”とどうつながっているかが重要です。たとえば、同じ商品でも「猛暑対策に有効」となれば夏場には報道されやすくなりますし、「地域の過疎化対策に貢献する」となれば行政や地方紙の関心を引きます。自社の取り組みが、社会全体のどんな課題や動きにリンクしているのか、必ず整理しましょう。
● 「数字」や「比較」「人のストーリー」をうまく使っている → 記事にしやすい素材として、数値・比較・人物は鉄板です。 ・「前年比○%成長」「地域で初」など、数字で明確化 ・競合や過去の状況との比較で意義を際立たせる ・創業者の苦労、開発者の想いなど、“人”が登場することで記事に温度が生まれる
これらを組み合わせることで、単なるお知らせが“報道に足る情報”へと変化していきます。
つまり、掲載される企業とは、「相手視点の設計」ができている企業なのです。
第3章:掲載されないプレスリリースにありがちな3つのパターン
メディア掲載を逃してしまうプレスリリースには、共通する“もったいない構造”があります。 以下のようなパターンに陥っていないか、ぜひご自身の発信をチェックしてみてください。
①「うちの会社、頑張ってます」型 → 自社の努力や情熱は十分に伝わるものの、第三者にとっての“意味”が欠落しているパターンです。 例:「新しい社内制度を導入しました」「社員の誕生日をお祝いする文化があります」 → 記者にとっては、“で、それが誰にどう影響するのか?”が見えないと、ニュースとして成立しません。 社内の話題は、社会との接点があってこそ広がります。
②「サービスリリース詳細ぎっしり」型 → リリースを“説明資料”のようにしてしまっているケースです。 例:「○○という新サービスは、API連携を利用し、△△との同期が可能で、なおかつ□□の仕様も…」 → 技術者には分かるかもしれませんが、記者や読者には“価値”が伝わりにくくなります。 伝えるべきは「何が新しいか」よりも「誰がどう助かるのか」なのです。
③「発表だけして終わり」型 → 起きた出来事をただ報告しているだけのパターンです。 例:「○月○日に○○をリリースしました」「□□に登壇しました」 → そこに至るまでの経緯や背景、その後どんな反響があったかなど、文脈がないと“読み物”になりません。 記者は「なぜ?」「どうして?」という問いに答える素材を探しています。
★チェックポイント: ・読者に新しい気づきを与えるか? → 発信する情報が、読者の視点で“なるほど”と思えるか? 読み手の感情や知識に何かしらの変化を与える内容になっているかを確認しましょう。
・「誰が得する情報なのか」が明確か? → そのリリースが、どの立場の人にとって役立つのか? 顧客なのか、地域住民なのか、業界関係者なのか。対象が曖昧だと、記者も「これは誰向け?」と判断に困ります。
これらをふまえると、単に「知らせたいことを詰め込む」のではなく、 「どの角度から見れば、社会的意義が浮かび上がるか」を設計することが重要であると分かります。
第4章:記者が“書きたくなる”リリースの特徴
記者は毎日、数十本から百本近いプレスリリースに目を通しています。 その中で「これは記事にしたい」と感じるのは、ただ情報量が多いリリースではなく、ニュースとしての“素材力”を持ったものです。 以下は、実際に記者が注目しやすい要素です。
● 明快なタイトル:10秒で“何が新しいか”が分かる → 忙しい記者にとって、タイトルは最初で最大の判断材料です。 「御社の新商品、誰向け?何が変わる?なぜ今?」 この3点が瞬時に伝わるタイトルが理想です。 たとえば、 「東海地方初・脱プラスチック包装で売上2倍に」 「高齢者の“自力通院”を可能にした新アプリ登場」 のように、数字や地域性、社会的意義が一目で分かるタイトルは目を引きます。
● ストーリー性:人物や背景にドラマがある → 「誰が、なぜそれをやったのか?」という視点があると、記者は構成を組み立てやすくなります。 ・創業者の原体験がきっかけ ・家族や社員の声がアイデアの源 ・過去の失敗から学んだチャレンジ
ニュースの中に“人間”が存在していると、共感と理解が深まります。
● 社会性・話題性:いまのトレンドと接点がある → 時事性があるテーマや、世の中の動向とリンクしている内容は取り上げられやすいです。 たとえば、 ・「熱中症対策」「物価高」「少子高齢化」などのタイムリーな課題 ・「SDGs」「ジェンダー平等」「地域創生」といった継続的な社会テーマ 単なる製品紹介ではなく、なぜ今この話題なのか?という文脈づけが必要です。
● 補足資料が充実:写真・図表・過去の事例・コメント → 「この記事、書きやすそう」と記者に思わせるリリースは、素材が整っています。 ・サービスや商品、イベントの写真(横向き・高解像度) ・データやアンケートのグラフ ・関係者のコメントや実績事例 これらが揃っていると、記者が自力で取材せずともある程度の記事が組めるため、採用率が一気に高まります。
つまり、“書きやすいリリース”こそが“載りやすいリリース”。 情報の量ではなく、構成・流れ・資料の整い方まで含めて「記事になる前提」を作ることが、メディア掲載のカギなのです。
第5章:掲載までの“仕掛け”がある企業は強い
プレスリリースは出すだけで終わりではありません。むしろ、「出した後」に何をするかが掲載率を大きく左右します。
メディア掲載される企業は、リリースを“きっかけ”にして、記者との接点を丁寧に仕掛けています。ここでは、そのための具体的なアクションをさらに深掘りしてご紹介します。
● メディアリストを用意し、記者に個別連絡 → 業界紙・地方紙・Webメディア・テレビ・ラジオなど、媒体ごとに記者や編集者のリストを作成し、送り先を戦略的に選定します。単に配信ツールで一斉送信するのではなく、 「このニュースは貴紙の○○特集と親和性が高いと思い、ぜひご紹介したく」 といったような、“記者目線に立った提案”を添えて送ることが重要です。 個別連絡には手間がかかりますが、その分、記者との信頼関係や印象に直結します。
● 発信タイミングの工夫(曜日・時間・他ニュースとの兼ね合い) → 火曜〜木曜の午前中は、記者が比較的余裕を持ってネタを検討しやすい時間帯とされています。 また、プレスリリースは「内容が新しい」だけでなく、「タイミングが的確」であることも不可欠。 大型連休明け、選挙報道、天候災害などと重なると、注目されるチャンスは大きく下がってしまいます。 ニュースサイトやTwitter(X)で話題の動向を日々ウォッチし、“空いている窓”に差し込む意識が必要です。
● 継続的な発信により「注目している企業」として認知される → プレスリリースは“打ち上げ花火”ではなく、“灯し続ける街灯”のように使うべきです。 一度だけの発信では「たまたま出した会社」で終わってしまいますが、定期的な発信を続けることで、 「この企業は情報発信が丁寧」「社会とつながろうとしている」 というポジティブな印象を記者側に積み上げていけます。 結果として、別のテーマや特集の際に「そういえばあの会社が…」と思い出してもらえる“選ばれる側”になっていくのです。
● 記者会見・説明会・現場見学などのオファー → リリースで興味を引いたあと、記者が一歩踏み込むきっかけを用意している企業は強いです。 「現場で開発者の話を聞けます」「モデルユーザーに直接インタビューできます」 といった具体的な誘導があると、記者は自ら取材の段取りを考えやすくなります。 特に“人”や“現場の空気感”に触れることが記事の深みにつながると分かっているため、 取材オファーを歓迎してくれる企業は重宝される傾向にあります。
つまり、プレスリリースは“ただの紙”ではなく、“記者との会話の入口”。 そしてその後の働きかけが、ニュースとして育つかどうかの分かれ道になるのです。
企業側から能動的に仕掛けることで、プレスリリースの可能性は何倍にも広がります。
第6章:ハベクロが支援してきた掲載成功事例
実際にハベクロが支援した企業の中から、メディア掲載を実現したケースをご紹介します。それぞれ、単なる「情報発信」ではなく、「伝え方」や「社会との接続」に工夫があった点が特徴です。
■ ケース1:地域の福祉団体の新サービスリリース ある地方都市で活動する福祉団体が、高齢者向けの移動支援サービスを開始。その背景には、地域の高齢化と交通弱者の課題がありました。 プレスリリースでは単に「新サービスを始めました」ではなく、 ・地域での課題調査データを添付 ・実際の利用者の声やエピソードを掲載 ・自治体との連携状況や今後の展望も明記 することで、社会的意義が強く打ち出されました。 その結果、地方紙の特集記事に掲載され、後にNHKの地域ニュースでも紹介されることとなりました。
■ ケース2:スタートアップ企業の受賞プレスリリース 創業3年目のIT系スタートアップが、全国規模のビジネスコンテストでグランプリを受賞。 「受賞しました」という結果だけでなく、 ・なぜこの企業が評価されたのか(審査員コメント) ・代表の経歴や起業動機、失敗談と再起のストーリー ・業界内での比較や独自性のグラフ化 など、記者が“記事を書きやすい要素”を揃えたリリースを作成。 業界紙に大きく取り上げられた後、Yahoo!ニュースにも転載され、問い合わせ数が一時的に3倍に増加しました。
■ ケース3:伝統産業の若手後継者が始めた新商品 常滑焼の製造を手がける家業を継いだ30代の若手経営者が、現代の暮らしに合う新ブランドを立ち上げ。 「新商品発売」という事実だけではなく、 ・地場産業の衰退と再生への挑戦という文脈 ・父との世代交代における葛藤や想い ・クラウドファンディングで300人以上から支援された実績 など、“物語”を重視した構成に。 結果、全国紙と地方紙の両方に掲載され、さらにテレビ局からも取材が入るなど、大きな注目を集めました。
これらの事例に共通しているのは、情報の「見せ方」「つなげ方」、そして記者が「記事にしたくなる構成」にまで落とし込んだ点です。 ハベクロでは、企業の“伝えたい”を“伝わる”に変える設計を、丁寧にサポートしています。
第7章:プレスリリースは「広報の入り口」でしかない
メディア掲載は確かに嬉しい出来事です。社会的な信用を得られるだけでなく、社内外の士気も高まります。 しかし、それはゴールではなく、あくまで「きっかけ」に過ぎません。
本当に重要なのは、掲載後にどんな反響があり、それをどう活かすかです。
● そこからどんな反響があり、どう活かすかが重要 → 「記事を見て問い合わせが来た」「採用ページのアクセスが急増した」など、メディア掲載には波及効果があります。 ただし、それを受け止める“受け皿”がなければ意味がありません。 例えば、リリースと連動したLP(ランディングページ)を用意したり、問い合わせ窓口の体制を整えたり、社内で「反響が来たらこう対応しよう」と準備しておくことが大切です。
● 発信がブランド価値をつくり、採用・営業・行政対応にも効いてくる → メディアに取り上げられた実績は、“他者からの評価”として機能します。これは、企業自身が自分で語るブランディングよりも説得力があります。 ・採用活動では「ここなら信頼できそう」と応募の動機に ・営業現場では「御社のニュース、見ました」がアイスブレイクに ・行政や金融機関には「社会的意義がある事業」としての評価に このように、一つの掲載実績が様々なシーンで効いてくるのです。
● 継続して“記者に思い出してもらえる企業”になるには? → 記者にとって「一度だけリリースを送ってきた会社」より、「定期的に的確な情報を届けてくれる会社」の方がはるかに印象に残ります。 掲載をゴールとせず、そこから再び情報提供やニュース素材の提供を続けることで、「あの会社、また面白いことやってるな」「困ったときに声をかけてみよう」といった“記憶に残る企業”となるのです。
プレスリリースは単なる発表ではありません。それは、広報活動の第一歩であり、社会との対話の始まりです。 掲載後の“動き”まで設計できている企業こそ、本当に広報の力を活かしているといえるでしょう。
まとめ:掲載される企業は、社会と接続している
企業が出すプレスリリースは、単なる社内イベントの報告書ではありません。 それは、社会に対して自分たちの存在価値を問い直し、つなげていくための「対話の手段」です。
掲載される企業は、「何を発信するか」だけでなく、「誰の心に届くか」「記者がどう受け取るか」までを丁寧に考えています。 その積み重ねが、信用を生み、ブランドを育て、未来の機会を呼び込みます。
プレスリリースは、その一枚の紙に想いを込める“社会へのアプローチ”。 だからこそ、出した瞬間がスタートライン。
ハベクロでは、企業の“想い”や“活動”を、“伝わるニュース”に変えるお手伝いをしています。 「何をどう出せばいいか分からない」「自分たちの価値が言葉にならない」 そんな時こそ、私たちの出番です。
あなたの発信も、きっと誰かの心に届く“ニュース”になるはずです。