
先日、愛知県半田市のオープンイノベーション施設で、これから起業する方に「起業のリアル」をお話ししました。
私がまず伝えたのはシンプルな一言です。
「楽しいことばかりじゃない。人・モノ・お金で必ず苦労します」
でも、それでも起業する価値はある。なぜそう思うのか。私自身の歩みを少し振り返ります。
独立は勢い。でも、理念がなかった
32歳のとき、印刷会社の営業マネージャーでした。
ある日、経営陣から言われたのは「3年で売上倍」という根拠なき目標。つまり毎年30%アップ。
「その根拠は?」と問えば「営業ががんばれ」。
しかも「無駄でもいいから一枚でも多く売れ」とまで言う。
納得できない私は、飛び出すことにしました。
しかも、転職ではなく独立を選びました。
勢い任せで。
結果、理念もビジョンも持たないまま走り出した会社は、迷走することになります。
苦難の中で学んだ、理念と信用の意味
起業直後は調子が良かった。
ところがリーマンショック。
一気に売上は8割減、部下も離反しました。
当然です。
理念もビジョンもなく、「この人と一緒にやりたい」と思わせる力がなかったから。
このとき強く学びました。
理念やビジョンは、順調な時には必要ない。
けれど苦難に直面したときこそ、共感してくれる仲間やお客様をつなぎとめる支えになる。
経営とは、変化に適応し続けること
私が選んだのは、右肩下がりの「印刷」という業界。
その後も、事業仕分け、震災、コロナと逆風の連続でした。
「上向いたかな?」と思えば、また下がる。その繰り返し。
そこで気づきました。
起業に必要なのは、変化を恐れず形を変え続ける力だと。
ただし注意も必要です。
理念に沿って変わるならいい。
でも、競合から逃げるように変われば、市場はそこになく、“沼”にはまる。
実際、私自身も「鈴木さんに仕事を頼みたいけど、何を頼めばいいか分からない」という時期が長くありました。
「人に生かされる」感覚を知った20年
それでも20年近く会社を続けてこられたのは、お客様、協力会社、仲間たちのおかげです。
私を応援してくれる人がいる。その事実に支えられてきました。
起業前の私は銀行にも行けず、ATMすら使ったことがありませんでした。毎月15000円のお小遣いで本を買うのが唯一の楽しみ。そんな自分が、多くの人とつながり、支えられながら経営をしている。
「人に生かされている」という感覚は、経営を通じて初めて得られたものです。
結局は、人生を楽しむこと
起業していなければ、不満を言いながら働いていたかもしれません。
でも、今は自分の考えを形にできる喜び、人に支えられる喜び、多くの人に出会える喜びがある。
苦難と喜びは常にセット。
それでも「起業してよかった」と思います。
広報とは「信用されるための努力」
今の私は「広報・マーケティング・印刷」の領域で仕事をしています。
広告や営業は「売るための行為」。
一方、広報は違います。
「信じてもらうための努力」です。
そしてマーケティングは「選ばれるための仕組みづくり」。
・どんな理念を持っているか
・どんな姿勢で社会と関わっているか
・時に弱みも正直に語れるか
その積み重ねが信用を育て、苦しい時にも人を呼び寄せます。
広報とは、信用を積み重ねる努力。
信用があるから、人が集まり、挑戦は続けられる。
だからこそ私はこう伝えたい。
人生を楽しむためにこそ、広報を続けて信用を培おう。
こんな話を起業家たちにお伝えしました。
この話が少しでも何かの役に立てば幸いです。
今日もがんばっていきましょう!


